『今日のパンを買うのもやっとという売れない手品師がいました。苦しい毎日ですが、いつかは大劇場の舞台に立つぞという夢を持っていました。ある日、元気がなく寂しそうにしゃがみこんでいる少年に出会いました。わけを聞くと、父を亡くし、母は働きに出て寂しい毎日を過ごしているとのことでした。手品師は、少年に次々と手品を見せました。すると、少年の顔には笑顔が広がり、明るさを取り戻したのでした。「明日も来てくれる!」「来るとも!」
その夜、手品師のもとへ友人から電話がかかってきました。「大劇場のステージに出るはずだった手品師が急病で倒れたので、代役で来て欲しい。今夜、出発すれば朝までにはこちらに来れるだろう。」という内容でした。夢にまで見た大劇場の舞台、しかし少年との約束がある。「一日待ってくれないか?」「だめだ。手術は今夜。明日のステージに穴が開いてしまう。すぐにそちらを発て。ステージが成功すれば、これから大きな仕事がたくさん来るかもしれない。」大劇場で手品をする自分の姿と少年の顔が浮かび、迷いに迷った手品師でしたが、この依頼を断りました。次の日、たった一人のお客さんの前で手品をする手品師の姿が見られました。』
これは、5年生の道徳の教科書(光文書院)に掲載されている教材「手品師」の内容の概要です。約束を守り、嘘をつかない誠実さが主題です。生活がかかっています。夢も持っています。しかも、その夢が叶いそうな場面を迎えています。でも、少年との約束があります。手品師の行動から道徳的な価値を学び、この状況で自分ならどうするのかを考えるのが、授業の柱です。
今日、5年2組で授業を参観しました。自分ならどうするのかとの問いに、児童は一生懸命考えました。「約束したのだから、残って明日少年に手品を見せる。」「自分の夢の舞台、大劇場に立って、戻ってきてから少年に手品を見せる。」「少年を大劇場に連れて行って、そこで手品を見せる。」そんな意見が出ました。
誠実さは大切ですが、この場面での行動選択は大変難しいです。手品師の行動に見られる道徳的価値をおさえながら、自分ならどうするのかを考え、自分の生き方について考えることが授業においては必要です。実際の生活の中では、様々な葛藤が存在します。しかし、判断は求められます。道徳の時間を通して、たくさんたくさん考えて欲しいと願っています。